私は、風紀委員室の中で比較的障害物が少ない場所に歩く。

「さあ、始めようか」

「うおおおぉぉぉぉ!」

血気盛んな風紀委員たちが我先にと攻めかかってくるのをひらりと避け、時に相打ちさせる。
勝負は、すぐについた。
襟ひとつ乱していない私に対し、彼らは息も絶え絶え。
素人目に見ても明らかだろう。
だが。

「……君はなかなか見所のある男だな」

「茶化すな!」

しつこいくらいとんでくる拳に、もう最初のような勢いは無い。
それでも、目にはギラギラと闘志を宿し、私に挑む者がひとり。
他は全員、私のことを認めたらしく、この手合わせから抜けていた。

「はああっ!」

最後の力を振り絞った一撃。
これを避けてはいけない。
最後くらい、直接相手をしよう。
拳を捌き、無防備な懐に滑り込む。
のびている腕を引き足をかけると、彼は向かってきた勢いのままひっくり返り、大きな音とともに力なく横たわった。

「青木ぃっ!」

「大丈夫か!?」

慌てて駆け寄る風紀委員たち。
私は素早く青木と呼ばれた人の身体を確認した。
頭は打っていない、呼吸は正常。

「大丈夫、寝ているだけだ」

そう告げると、皆ほっとして息をついた。

「お前ら、この人の力は分かっただろ。見回りの時間だ、行ってこい」

光紀が手を叩いて命令を下す。

「イエッサー! ………よろしくな、新入りもやし」

「強かったんだなもやし」

風紀委員たちはいい返事をして風紀委員室を出て行く。
その際私にも声をかけてくれたのだが『もやし』で決まりなのか。

体育会系が全員出払ったここに残ったのは、私と光紀と李白、のびている青木。
そして、ずっとパソコンを叩いている松本と呼ばれていた生徒だけ。