駅から学校まで10分ほどの短い距離、お母さん……美代子ちゃんはずっと喋りっぱなしだった。5月なのにマフラーとコートを着ている私に「さすがにその格好じゃあ暑くないかしら」とか、「どこから来たの?」とか、「青翔はねえ、前の学校を取り壊して新しく造った学校なのよ。今年で7年目だったかしら」とか、彼女の話は途切れることを知らない。私はどちらかと言えばお喋りのタイプではないので、彼女の質問に答えることも相槌を打つこともまともにできなくて、「ごめんなさいね。喋りすぎちゃったかしら」と困らせてしまった。美代子ちゃんの言葉を否定したかったのにできなくて、心の中は自己嫌悪でいっぱいだ。どうせ美代子ちゃんも、本当の世界のクラスメートみたく私から離れて行ってしまうのだから必死にならなくていいかと、自己嫌悪で沈んでいた心が卑屈になって、それから少し軽くなった。

「ここが青翔高校よ」
「わ……。きれい」

 築7年の青翔は、古めかしいデザインながらも綺麗だった。


さみしいのほし
Act.04 日本侵略疑惑


 美代子ちゃんに案内されて職員室へ行くと、ちょうど職員会議の終わった先生たちがいっせいに廊下へ出てきた。その中の、背の高い男の先生が私と美代子ちゃんを見るなり、目を丸くした。美代子ちゃんは私の肩を軽く叩くと、にっこりと笑ってその場を去った。きっと自分の教室へ行くのだろう。生徒会長が朝のSHRに居なければ他の生徒に格好がつかなくなる。私は先生たちに声を掛けられながら教室へ向かう美代子ちゃんの背中を見送った後、背の高い先生を目だけで捜した。

「おはよう。河野美晴さん?」
「はい」
「きみの新しいクラスを担当する1年3組の中原です。じゃあ、ついておいで」
「はい」

 背の高い先生は中原というらしい。なんだか頓着しなさそうな人だなあ、と先生の寝ぐせだらけの後頭部をぼんやりと見ながら思った。だって、普通何かもっと言うこととかありそうなのに。転校したことないから分からないけど。というか、その前に私ってこの時代の人間じゃないんだから怪しまないの?「だれだ、お前はー!?」ってならないの?この時代の人間じゃないということは分からないにしても、転校生じゃないことは分かるはずだ。なんだ、あれか、宇宙人が大々的にこの国の人間の記憶を改ざんしたとでもいうのか。宇宙人は国単位で実験をしなきゃいけないのか。だったら私、宇宙人じゃなくてよかったなあ。実験なんて成功したことないもの。試験管やビーカーからUMAが誕生するもの。ああ、思い出すだけでもおぞましい。