優衣は無様に尻餅をつきながら、恨めしげに私を見ている。

「優衣ちゃんだいじょおぶぅ?」

優衣の隣にひざまずき、媚びるような猫撫で声を掛ける男に、思わず眉根が寄った。

笹原伊織(ササハライオリ)、優衣の信者だ。

今どきありえないくらいの、重たい黒髪。顔の大半を占める分厚い瓶底眼鏡に、鼻まで垂れた前髪のせいで、顔の造形はさっぱり分からなくなっている。

私も人に言えた道理はないが、正直美徳に反する。

何でも清潔感が第一。

「おい笹原ぁ、ブスのくせに優衣ちゃんに近寄ってんじゃねえよ!」

「マジキモいんだけどー。優衣ちゃん、やっぱり溝渕先輩に言ったほうがよくなーい?」

……コイツらよりは、少なくともマシだとは思うけど。

人の外見にケチしかつけられないような連中は、まず優衣が許さないだろうし。

「えー、別に私気にしてないよ?溝渕先輩に言うほどのことでもないしね?笹原くんは私を心配して言ってくれただけだしー」

ね?と笹原に優しい微笑みを向ける優衣。

コクコク、と頷きしか返せない笹原の顔は、多分真っ赤だろう。

見えないから何とも言えないけど。