ある日の放課後。
葉月リオは委員会の仕事が思ったよりも長引き,
早く帰ろうと自分の教室へと走っていた。

辺りを見るともう日は沈みかけ,窓の外では家路につく生徒達の笑い声が響いていた。

とにかく急ごう,とパタパタと静まりかえった廊下を走る。
生徒は一人も通っていなかった。


やっとリオのクラス,2-3に着く。
後ろの扉を開けようとしたとき-。
教室に人影があるのに気がついた。

-こんな時間に誰だろう…-
そんなことを思いながら少し廊下から様子をうかがう。

小窓から覗くと,その人影の正体は担任の井上龍だった。
教師用の机にどかりと腰掛け,誰かを待っているようだ。

-先生…ってちょっと気まずいなぁ…-
龍はちょうどリオがこの高校に入学したと同時に異動してきた。

フレームの細いメガネを普段かけていて,長すぎず短すぎずといった
少し茶色がかった髪。
暗い印象など全く受けず,気さくでおおらかなオーラを漂わせる。

龍とリオはたまに授業で分からないとき(ちなみに担当の教科は数学)
や係関係などで会話するくらいしか話したことはない。

それでも,あまり話すのが得意ではないリオにもいつも明るく接しくれていた。
若くてかっこよくて頼りがいのある先生で,生徒からも人気があるようだった。
リオも気づいたら目で追っていたり,龍のことを考えていたりと,
その中の一人として龍が好きだった。


ガラガラ・・・
うつむき加減でおずおずと教室の後ろの扉を開ける。

自分の机に向かおうと歩き始めたとき-,
「お,やっと来たか」
「…え?」