「何を言ってるの?」
「忘れっちゃったの? 聞きたかったこと、あるんじゃないの?」
 その言葉に神妃はわずかに肩を揺らす。創星の豹変ぶりに忘れかけていたが、なぜ自分と姉が結婚するなどという話が出来ていたのか。
「なんで創星と私が結婚することのなるの? おかしいよね? 姉妹で結婚なんて」
 神妃が改めて問えば、創星は「やっと聞いてくれた」と、安堵するように微笑みゆったりと神妃へと近づいた。
「神妃さ、今日の帰り言った言葉覚えてる?」
「は? なんでそこに話が飛ぶの?」
「いいから、覚えてるよね?」
 距離を縮めてくる創星に気おされ、神妃は上体をわずかに逸らして頷いた。
「違う顔で、血が繋がっていなくて、男だったら……結婚してくれるって」
「や、結婚までは言ってない」
「じゃぁ、今、約束して?」
「え?」
「違う顔で血縁じゃなくて男なら結婚するって」
「……」
 創星の言葉に何か含みを感じて、神妃は頷くことができない。
「約束できない?」
「できない」
「なんで?」
「なんか、嫌な予感がするから」
「嫌な予感、ねぇ」
 神妃の言葉に創星は僅かに視線を宙に巡らせてから、そしてまた笑顔を浮かべて神妃へと語りかけた。
「ねぇ、私たち姉妹よね?」
「え?」
「ね? 姉妹でしょ?」
「う、うん」
 態度がまた変わったことに神妃は戸惑いながらも首肯して創星を見返す。
 彼女は双子の姉、これは変えられない事実。
「じゃ、さっきの約束って別にしても問題ないんじゃない?」
「そ……かな?」
「そうだよ」
 創星の甘い言葉に、本当に約束してもいいような気がしてきた。
 確かに、彼女は”女”で”姉”でしかも鏡合わせの様に”同じ顔”をしているのだ。この事実は、”絶対に動かない”。
 性格が変わるのは、それは個性という事にしておこう。
 神妃の戸惑いが晴れていくのを見てか、創星は嬉しそうに微笑み、同じ問いを繰り返した。
「じゃぁ、神妃。違う顔で、血が繋がっていない男だったら、オレと結婚してくれますか?」
「……はい」
「神妃は、素直だね、そこも可愛いんだけど」
「へ?」
「もう、逃げられないよ」
 そう言ってまるで獲物を捉えた蛇のようにじりっと距離を詰め、創星は笑う。
 その微笑みに神妃は身じろぎさえも忘れてじっと創星を見つめ返す。