花嫁のライセンス

 神妃の戸惑いをどう捉えたのか、父は落ち着いた口調で”創星から聞いたこと”を神妃へと紡いだ。
「創星ちゃんとの結婚だよ」
「…………は~~~~~~~!?」
 たっぷり間を開けて神妃は叫んだ。
 その様子に、父は「あれ?」と首を傾げて創星へと顔を向ける。そこには悪戯が成功したことを喜ぶ子供の様に笑う創星がいる。
「創星ちゃん? 言っていなかったのかい?」
「私、一言も言ったなんていってないよ」
「創星ちゃん……」
 がっくりとその言葉を受け、父はテーブルの上に熱せられたフライパンに広がるバターの様に突っ伏した。
「ちょっと! どういう事!!? 私が創星と結婚なんて!!」
 突っ伏して顔を埋める父の方をゆさゆさと揺さぶり、今の会話の意味を言及する。
 しかし父は顔を上げようとせず、神妃に揺さぶられるがまま。
「ねぇ、お母さんどういう事? どんな冗談!?」
「お母さんは、知りません」
 今までずっと黙っていた母へ今度は目を向けるが、最初から関わりを断っていた様子の母は知らん顔。
 欲しい答えも貰えぬまま、神妃の気持ちは苛立ちを募らせる。
「ねぇ!」
「し~んぴ」
 ひやりとした手が父を揺さぶっていた神妃の手に触れる。驚いて差し出された先へ目を向けると、そこには微笑む創星の顔。
「そ……ら?」
「神妃。聞く相手間違えてるよ?」
「……」
 じっと神妃の目を覗き込み、笑顔を浮かべる創星に、神妃の心がぶるりと震えた。
 掴まれた手が怖くてゆっくりと逃げるように引き戻せば、その行動が面白かったかのように、創星の目がすっと細くなる。
「ねぇ? お父さんとお母さんに聞くなんてまどろっこしいことしないでさ、聞いてよ……オレに」
「お……おれ?」
「そ、オレに」
 机に肩肘を預け頬杖すると、創星は急に声のトーンを低くして囁くように神妃へと語りかける。
 その姿、その声、全てが神妃の見たことのない創星の姿。
 戸惑いを隠せず、何を言っていいのかもわからなくなり、神妃は唇をギュッと噛んだ。
「困る事なんて何もないでしょ? たった一言。聞くだけなんだから」
「な……にを?」
「あは、知ってるくせに」
 笑う創星。彼女の笑顔は神妃には恐ろしく見える。
「あなた、誰?」
 こんなの創星じゃない。創星はこんな風に笑ったりしない。神妃は、急に態度を変えた姉が別人に見えて思わずそう口にしていた。
 その問いに驚いた創星はぱちりと瞬きをして噴き出した。
「そう来たか……ああ、まぁね。うん、ごめんね。本来のオレはこっちでアレは作ってたの」
 作っていた――その言葉に、姉ではないと確信を得て神妃はキッと創星の姿をした者を睨みつける。
「創星をどこにやったの!?」
「ここにいるじゃない」
「嘘!」
「本当だよ。信じたくないのかもしれないけど、これを認めてくれないと先に話が進まないんだよね」