花嫁のライセンス

 創星は神妃をにっこりとほほ笑みを浮かべながら覗き込んでくる。その視線から逃げるように、神妃は目をそらした。
「姉妹でも何でも、嫌なものは嫌なの」
――私が嫌がっている理由なんてわかってるくせに聞いてくるんだから
 神妃は、創星に対してコンプレックスだらけなのだ。
 同じ顔なのに対極に存在している彼女は、神妃から自分の欲しい物ばかりを持っているように映る。
 そして距離が縮まれば縮まるほど、それは浮き彫りになるように感じられ周りからも比べられているのではないかと卑屈な思いがわいてくる。
 そして今の創星の笑顔は、すべてを見通しているような目をし、逸らすことなく真っ直ぐに向けて口元だけに笑みを作る。劣等感に苛まれている姿を見られたくない神妃は、この顔が一番嫌いだった。
「嫌な性格してるよね、大嫌いよそんなところ」
「私は、神妃のこと大好きだよ」
 吐き捨てるように言った神妃の言葉に、満面の笑顔を浮かべて創星は手を放す。
「私は……好きになれないわ、やっぱり」
「どうしても?」
「どうしても」
「そっか……ま、いいよ。今はそれでも」
 全部が全部嫌いな訳じゃない……でも、好きな部分なんて、妬む気持ちが邪魔をして素直に好きだと伝えられない。
 気持ちが色々ないまぜで、嫌いの一言しか言えない神妃に、創星は笑顔で頷いた。
「でもね、覚えておいて。私は何があっても神妃の全てが大好きだからね」
「創星……」
 カコンと音を立てて、創星は自分の下駄箱からローファーをタイルの上に放り投げる。
「さ、早くして!! バスが行っちゃうよ!!」
「あ、うん」
――一瞬。創星が違う人に見えちゃった
 昇降口の先から入り込む夕日が逆光を作り、僅かの間、創星の姿は黒いシルエットに変わっていた。
 そのシルエットは、長身の男性に見えて神妃は瞠目し動きを凍らせてしまっていた。
「気のせいよね」
 今日はきっといつもよりも疲れているんだ。と、自分に言い聞かせ急かす創星に続いて校舎を後にした。