「あ、告白とか、男とかで思い出した! 創星。あんた斉藤先輩とどうなってるの? 付き合うって聞いてからその後なんの話も聞いてないけど」
「あ、うん、別れた」
「は? はぁ~~!? 別れたって、早くない!? その話を聞いてから数日しか経っていないんだけど!!」
 昇降口までまだ少し距離があり、夕やみ迫る廊下を二人は歩いていた。先ほどの問答で、少し気まずくなった神妃は話題を持ち出し重苦しい沈黙を払拭するための他愛のない話題提供だったつもりなのに、予想外の創星の答えに神妃は目を驚きに見開いた。
「なんで? ねぇ!? どうして!!?」
「え~、答えないとダメ? めんどくさい」
「めんどくさがるな馬鹿! あんなに嬉しそうに報告してきたじゃない!」
 驚きのあまり足が止まる神妃とは別に、創星は何事もないように足を進めている。その彼女の足を止めるようにわずかに体を後ろへと引けばあからさまに面倒だと顔に顕にした創星が振り返る。
「だって、好きになれなかったんだもん」
「あ、あんた……さっき私にそんなことするなって言ってたじゃない!!」
 自分の事を棚に上げた先ほどの言葉に、神妃は言葉が詰まる。そんな彼女を見て。創星は可愛らしく首を傾げ、
「私の様にならないでね? 神妃」
「可愛らしく言ってもダメ!! なんで、そんな簡単に付き合ったり、別れたりできるの……」
――創星の考えてることが分からないよ
 色々な気持ちが混ぜ込み、神妃は呼吸が苦しくなる。
 創星には言っていなかったが、神妃はその斉藤先輩へ淡い恋心を抱いていた。
 しかし、その思いを伝える勇気もなく、一年後に創星から斉藤先輩が告白されたと報告を受け、神妃の恋は実らないまま終わりを告げていたのだ。
「私が欲しかった場所なのに、どうしてそんな風に捨てられるのっ」
 喉がしまるほど苦しく熱いため息と共にこぼれた言葉。
 か細く、とても小さな声だったが、静まり返った廊下には十分すぎる程の声量で、しっかりと創星にも届いていたようだ。
「神妃?」
 伺うような声が神妃の耳に届くが、今は創星を見る勇気はなく、じっと床を見つめる。