制服はあちこち破れているけど、ひどい怪我はないみたいだ。
「よかった…」
とはいえここがどこだかわからない。
家に帰れるのか検討もつかない。
「……あんた、どこから来た?」
突然耳に飛び込んできた日本語に驚いて顔を上げると、凛に話しかけているのが初老の男だとわかった。
「東京です」
男はわからないというふうで尋ね返してきた。
「東京?どこだい?…あんた、妙な格好をしてるな」
「…ここはどこなんですか?」
「ここはルーナの外れ、アデンという街だよ」
やっぱり日本じゃない。
外国?
日本以外で日本語を使う国なんてあったっけ?
急に鼓動が速くなる。
何か…おかしい。
いくら川で溺れて流されたって、海を流されて外国に着くまで生きていられるはずがない。
「…ルーナ?ルーナって何?国かなにかの名前ですか?なんでおじさん日本語喋れるの?」
男は目を見開いた。
「日本語ってどこの言語だい?俺は日本語なんかしゃべってねえよ。あんたと同じルーナ言語しかしゃべれない」
「ルーナ言語?わたしそんな言葉知らない!!!わたし今日本語で…」
「あんたまさか本当に異国の人なのかい!?どうやってこっちに来た?」
男は乱暴に凛の手首を掴み、立たせた。
「来い、役所に行こう」
「役所に行って、どうなるんですか?」
「俺は詳しくは知らん。異国人は役所に連れていく決まりなんだ。異国人は禍を呼ぶ。役所にしばらく閉じ込めてあんたが禍を呼ぶようなら、おそらく死刑だ」
言葉の意味を飲み込むと、目の前が真っ暗になった。
「…死刑!?わたし禍なんか呼びません。家に帰らせて!!!」
「残念だがお嬢さん、帰れねえんだ。
あんたがどうやってこっちに来たかはわからんが、異界の扉が開いたのは十数年前の一度だけだ。あのときはこっちの人間があっちに流された。流されて帰ってきた奴がいるって話は聞かねえな」
帰れない……?
涙が溢れた。
いったん溢れ始めると、止まらなかった。
男は気の毒そうにしていたが、やがて凛を歩かせ始めた。
抵抗する気力さえもなかった。
凛は引きずられるようにして役所まで連れていかれた。
SA


