その夜、仕事から戻った春樹に小夜は吉報を伝えた。


「春樹さま、祐里は右手に桜の花を握っていました。

 光祐坊ちゃまが遊びに来られた時に掌(てのひら)を開いて、

桜の花を差し出したのですよ。

 この辺りの桜は、まだ蕾でしょう。不思議でなりません。

 それからは、ご覧のように右手を使いますの」
 


「ほんとうだ、右手を使っている。

 それにしても、桜の花を・・・・・・

 不思議なこともあるものだ。

 これは、祐里が桜に守られているということだろうね。

 祐里は、しあわせになる子だよ。

 光祐さまに肖って「祐」の字をいただいた甲斐があったようだね」

 

「はい。なんだか安心いたしました。

 私のために神の森を出ることになった春樹さまの御子が、

この桜川の地で受け入れられたのですもの」


 春樹は、右手を使っている祐里を抱きかかえて頬擦りした。



 ………