「お家の方が心配されてございましょうから、
わたくしから電話をかけましょうね。
今夜は、当家にお泊まりなさい。
電話室はこちらでございますので、ご一緒にいらしてね」
薫子は、廊下の電話室で美和子に受話器を渡して、
電話交換手に電話番号を伝えるように指図した。
美和子は、素直に従った。
しばらくして、電話の呼び出し音が鳴り響く。
薫子が受話器を取ると、交換手が桑津家に電話を繋いだ。
「夜分に申し訳ございません。
わたくし、桜河電機の桜河薫子と申します。
美和子さんに残業していただいて遅くなってしまいましたので、
今夜は当家でお預かりさせていただこうとお電話を差し上げた
次第でございます。
御許しいただけますでしょうか」
「まぁ、奥さまでございますね。
いつも美和子がお世話になってございます。
ましてお泊めいただくなんて申し訳ございません。
こちらこそ、ご迷惑ではございませんか」
美和子の母・美律子は、恐縮して答えた。
「いいえ、大切なお嬢さまに残業していただいたのは、
こちらでございますもの。
それでは、美和子さんをお預かりいたします。
明日の朝には、こちらからお送りさせていただきます。
今、美和子さんとかわりますので、少々お待ちくださいませ」
薫子は、美和子に受話器を手渡した。

