神の森

 
 光祐は、薫子と紫乃が、事を大袈裟にせずに、

上手く処理してくれるだろうと考えて、桜河の家に向かった。


 美和子は、狭い車中で光祐と二人だけの時間が持てたことに

胸がいっぱいで、車を運転する光祐の真剣な横顔を瞬きもせずに

見惚れていた。


 光祐の逞しい胸の香りがこころを満たしていた。



「素敵なお屋敷ですね」

 玄関の車寄せで車を降りた美和子は、お屋敷の大きさに感心していた。


「母上さま、ただいま帰りました。秘書の桑津美和子くんです。

残業の後に淹れてくれた紅茶を零してしまって、

申し訳ありませんが、桑津くんに何か着替えをお願いしたいのですが」


 困惑の表情の光祐は、玄関に迎えに出た薫子に美和子を紹介した。


「おかえりなさいませ、光祐さん。遅くまでお疲れさまでございました。

 まぁ、どうなさったの。

 桑津さんは、こちらへどうぞ。紫乃に着替えを出させましょうね。

 すぐに夕食にいたしますので光祐さんは、着替えていらっしゃいませ」


 薫子は、光祐の白いシャツの襟元に付いた口紅と美和子の濡れた洋服に

驚きながらも、顔色を変えずに答えた。


 わざわざ光祐が美和子を連れてきたからには理由があるはずだ

と感じていた。


 薫子は、自室に美和子を案内して長椅子をすすめると、

紫乃に着替えを持ってくるように声をかけた。


 紫乃は、納戸に行き、祐里のワンピースを取り出した。


「スカートの染みは、紅茶かしら。火傷はなさいませんでしたの」

 薫子は、若さを誇る美和子のはちきれそうな肢体を見つめる。


 光祐に限って浮気など考えられないと思いつつ、不安な気分に包まれる。


「はい。そそっかしいものですから。

 奥さま、夜分にお邪魔して申し訳ありません」

 美和子は、悪びれる様子もなく、薫子の問いにはきはきと答えた。