祐里は、枯れかけた葉や折れた枝を歩きながら触った。

 祐里に触れられた樹木は生き生きと潤い蘇っていった。


 祐里は、自分の身体から漲る生命の力を溢れんばかりに感じていた。

 今まで抑えられていた生命の力だった。

 祐里自身、気付かなかった力だった。

 いや、気付かないように封印していた力だった。


 病を患った濤子(なみこ)は、可愛がっていた祐里を「病が移るから」

という名目で死ぬ間際まで近付けなかった。

 死ぬ間際になって、枕元に祐里を呼び、桜の樹を託した。

「わたくしは、四十過ぎてから授かった啓祐さんを立派に育て上げる

ことができました。

 もう思い残すことはございません。

 そろそろ愛しい旦那さまの元に参ります。

 祐里が側にいると病が治って旦那さまの元に逝けませぬ。

 祐里を嫌うて会わなかったわけではないのですよ。

 祐里には病を治す力があるようです。

 祐里、その力を忘れて光祐としあわせにおなり。

 それから、庭の桜の樹は、桜河家のお守りの樹ですから、わたくしの

代わりに大切にしておくれ」

 祐里は、忘れていた濤子(なみこ)の言葉をこころの中で蘇らせていた。


 人々を癒していた不思議な力・・・・・・

 祐里は、この力のためにいつの日か光祐と離れる日が来るような気が

してならなかった。


 その反面、本来の力を自由自在に発揮できる神の森に居心地のよさを

感じてもいた。


 優祐は深緑の森に祐里が溶けて同化していくようで心配になった。

 祐里の白い肌が透明になり森の緑に透けて行くように感じられ、

慌てて祐里の腕を掴んでいた。


 優祐の中で桜河家の血筋と榊原家の血筋が鬩ぎ合っていた。