「ばか三崎。最低。変態。あ、次移動教室だからそろそろ戻ってきなよ」

「いって、マジ痛ぇ!」

「綾瀬もだよ」

本気で痛がる三崎を尻目に、綾子は笑った。三崎の肩を叩きながら、俺も曖昧に頷いた。


綾子がいなくなって、やっぱりなんか、甘ったるい匂いがした。

いや、臭い訳じゃなくて、シャンプーとかそっち系の。

俺は無意識にその香りの方を目で追ってしまう。


「可愛いよな~。綾ちゃん」

ふいに三崎が呟いて、ハッとして視線を戻した。手すりに腕を投げ出した三崎は、口を尖らしてなんか言ってる。

「あの、ちょっと乱暴な所とかツボなんだよな~」

「お前M?」

「いや?」

空を見上げた。やっぱり眩しい。もう十二月なのにギラギラしやがって。

「…綾子は、ダメだろ」

結構小さな声のつもりだったのに、聞こえたのか三崎が複雑な顔になってた。

「まーな」


ちょうどチャイムが鳴って、俺たちも慌てて渡り廊下を走って行く。


見上げた空はウザイくらいに爽やかな青だった。