『返して!それはパパにあげるの!!』


小さなあたしが走ってる。
追いかけてるのは可愛くラッピングされたピンクの箱だ。
あれは確か、前日にママと二人で大好きなパパの為に作ったバレンタインデーの為のチョコレート。


『取り返してみろよ!チービ!出来なきゃオレのもんだぞー!』


嘲る様に囃し立てる声に、手をぎゅっと痛いほど握りしめて、泣いてしまいそうになるのを必死に堪えていた。


『あんたのなんかじゃない!返して!!』

『ほら、パース!』

『ナイスキャッチー!』


首謀者の取り巻きがあたしの大切なチョコレートを宙にポイポイ放り投げる。


大嫌い、大嫌い、大嫌い!!!
パパ以外の男の子なんか本当に嫌い!
中でもアイツが大っ嫌い!!
中学生になってまでこんなことをする。人一倍体格のいいその首謀者を、あたしは思いっきり睨んだ。


『…っ、なんだよ…!』


ヤツが何故か少し怯んだ。
その隙にチョコレートを奪い返そうとしたけど、やっぱり届かなくて…。


『……っ』


もうダメ。泣いちゃう。
そう、下を向きそうになった。


ーーそしたら、

長い腕が伸びてきて、あたしの目の前にはピンクの箱。


『…ん』


ぶっきらぼうに差し出されたそれを呆然と見ていた。


ねぇ、待って。
あなたは誰だっけ?
知ってるはずなのに、あれ?思い出せないよ…。


ピピピピピピーーー!!
けたたましい目覚まし時計の音が、あたしを一瞬で現実に連れ帰る。

ぼんやりと目を開けると、重い身体を何とか起こした。


「はぁー…、久しぶりにやな夢見たぁ…」


アイツらの夢は久しぶり過ぎる。
…ん?あともう一人いたような…?


「……やばっ!時間!」


忘れた何かを思い出そうとしたけど、学校の用意にすっかり消えた。



ーーさっきの夢で察したかも知れないけれど、あたしには思い出したくない過去がある。