「気を取り直して。ケーキを食べましょう」
まだ顔を手で扇いでいる月を目に焼き付けながら、テーブルに広がる料理を全て片付ける。
そして、冷蔵庫から出したケーキを運ぶ。
ケーキはフルーツを飾ったタルト。
生クリームとカスタードを敷いて心を込めたタルトだった。
「タルトにしました。生クリームとカスタードを敷いてあります。飾りはイチゴを中心にフルーツです!」
香りだけでタルトだとわかる。
クッキーを焼いたときの香り、だろうか。
それにフルーツの香り。
「美味しそうですね」
「ありがとうございます」
紅茶も用意して準備万端。
タルトを切り分ける。
「……タルトって切るの難しいですよね?」
「コツがありますから。それに、メイドたるものどのような料理でも綺麗に切れなくては」
「そういうものなんですか……」
実際、タルトは割れることなく綺麗に切り分けられた。
しかしイリアは皿に移さないまま月の名を呼んだ。
「月様」
「なんですか?」
「お渡ししたいものがあるのですが」
「奇遇ですね。私もです」
「今、お渡ししても?」
「ええ」
「それでは」
どこからか小さな箱を取り出すイリア。
「メリークリスマス、月様」
「ありがとう。メリークリスマス、開けてもいい?」
「どうぞ」
月は丁寧にラッピングを外し、箱を開けた。
中から現れたのは小さな瓶。
「これは……?」
「香水です。いろいろ考えたのですが、一番良いかと思いました」
シンプルな形の瓶からは微かに甘い匂いがする。
主張の激しくない、優しい香りだ。
「……どう、でしょうか」
緊張しているのが空気でわかる。
月は柔らかく笑った。
「ありがとう。とても良い香りだと思います」
イリアは深くため息をついた。
よほど緊張していたらしい。
「それでは、私も。イリアさん、後ろ向いていただけますか?」
「はい。」
月に背を向ける格好のイリアは首に冷たいものを感じた。
髪が少し分けられ、後ろで何かされている。
「できました。メリークリスマス」
「メリークリスマス。……あの、月様これは?」
「鏡を見てきて下さい」
イリアは言われた通り鏡の前に立つ。
「あ……」
ネックレスだった。
銀の月が、揺れていた。
「月様!」
「喜んでもらえましたか?」
「はいっ!はいっ!ありがとうございます!!」
「良かった。実は遥さんに手伝ってもらったんです。形はわかっても色まではわからないから」
「とても、とても嬉しいですっ!!」
イリアは月につけてもらったこのネックレスを一生外すことはないと心に誓った。
それこそチェーンが切れない限り。