「よく、あれだけの時間でここまで作れますね……」


感動を通り過ぎて呆れに変わった感想だった。

それというのもイリアはクリスマスパーティーの為に沢山の料理を持って行ったのだ。

その時までに作ってあった料理は全てパーティーで皆のお腹へと消えた。

それならばこの、目の前にある料理はイリアが帰ってきてから今までの間に作ったことになる。

もはや、人間業ではない。


「月様の為であればこのくらいは何でも御座いません」


そう言いつつも胸を張るところがイリアがイリアである所以である。

自分の主の為ならばどんな事であれ成し遂げる。

そして主に褒められるためだけに存在する。

それがネコミミメイド、イリアである。


「さぁ、さぁ、月様どうぞこちらへっ」


猫耳が嬉しさを隠しきれずにパタパタと動いている。

月は苦笑しつつも勧められた席へと座った。

直ぐにイリアはローストチキンを食べやすいように切り分ける。

骨から綺麗に身だけが剥がれて、さながら魔法。

もちろん、味も申し分ない。

イリアが愛する辛みもなく、月の為だけに作られたものだとわかる。

わかるのだが。


「あの、イリアさん」


「はい!」


「イリアさんは食べないのですか?」


「……月様の為に作ったものですので」


イリアは一礼。

月は少し眉間に皺を寄せて首を傾げた。


「一緒に食べましょう?」


「いえ、私は」


「一人よりも二人で食べた方が美味しいですよ」


「でも」


「イリアさん」


「あの」


「イリアさんは一緒に食べてくれないんですか?」


「……わかりました」


月の言葉に負けたイリアは皿と唐辛子を取りにキッチンへ行き、月の隣の椅子に座る。

そして二人の小さなクリスマスパーティーが始まった。