「うん。美味しい」



小さな声は静かな空間を震わせた。



一人キッチンでスープを味見している少女。

その顔は実に幸せそうで、愛おしいものを見るように視線は宙を舞っている。

頭の上になぜかついている猫耳も嬉しいのを隠せないようにピクピクと震えている。

尻尾でもあれば、きっと千切れそうなほど振っていることだろう。

鼻歌が聞こえないことが不自然だと思えるくらいに上機嫌である。






――ピピピピ……


どこからか電子音が鳴った。

少女はその音を聞き、ウキウキとした様子で電子音を鳴らしたオーブンを開ける。

ふわっと肉の焼ける香りがキッチンに広がった。

深呼吸をした少女はこれ以上ないほどに、にっこりと微笑む。

そして香りを発している鳥の丸焼き、つまりローストチキンを取り出した。

――……そういえば、クリスマス以外で見たことがない。

何故なのだろうか、一瞬首を傾げたが気にすることではないと準備を進める。



先に焼きあがっていた焼きたてパン――シンプルなロールパン、レーズンの入ったもの、クロワッサン、フランスパン……などなど少女が思いつく全てのパン――を吟味しながら皿に盛っていく。

ちなみにここで外された、形が崩れているもの、中身がはみ出しているものは少女の実家で消費される。

その後、付け合わせのサラダ、ポテト、スープを盛り付けてリビングへと運び出す。

最後にメイン料理であるローストチキンを大皿へと盛りつけ、テーブルの真ん中に置く。




全て準備が終了し、少女は不備がないか隅々までテーブルを見渡す。

何分かたったとき満足したのか少女はくるりとキッチンへ戻る。

そこにある一番時間をかけたと言っても過言ではない料理を、慎重に冷蔵庫へと移動させた。

喜んでもらえるだろうか。