「――近い」

グイッ

「ひゃあっ――ぁ…え…」


　西城くんの低い一言が聞こえた瞬間。

　私は二の腕を掴まれ、勢い良く誰かの胸に引き込まれた。


　見上げると、それは西城くんで……眉間には深いシワが刻まれていた。




「彼方……如月を、あんまり困らせるなよ」


　口調はいつものように穏やかだけど。そう言った斉藤くんのいつもの柔らかい表情が、何故か強ばっていた。


　……というか、怒ってる…？





「お前に関係ない」


　斉藤くんの言葉にその一言で答えると、西城くんは私の腕を掴んだまま、教室から出て行く。




「彼方っ！」



　斉藤くんの呼び声には、もう答えない彼。



　さっき私のことを話してた子達が、目を見開いて私達を見ていた。


　そんな周りの目を気にする事なく、西城くんは私の腕を掴んだまま、無言で廊下を歩いて行った。



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