『平野の余裕…壊したくない?』

あれから多田くんに言われた言葉が
頭から、ちっとも離れない。


多田くんは、何考えてるんだろう…?


優真は、確かにいつも余裕なんだけど、
余裕を壊すって……どうやって?

「……ぃ!…おいっ!」


「ひゃっ?!」


優真の声に現実に引き戻される。


「何、考えてんの?」


あたし今、優真と帰ってるんだった…。


「え、何も……考えてないよ?」

「……お前さあ「三原っ!!」


優真が何か言い掛けたのが気になったけど、
呼ばれた方を振り返った。


「多田くん?!」


そこには、息を切らした多田くんがいた。


「ど…どうしたの?!そんなに走って…」


「ノート!!」


「えっ?!」


「この前、三原が俺に『古典のノート書けてない~』って言って、泣き付いてきたじゃん」

それ、今日提出なんだけど?


と、呆れたようにあたしを見る。

「あ~!!すっかり忘れてた!!ノートも家だよ…
多田くん、もっと早くに言ってよぉ!!」


「いや、被害者は俺だから!」


そう言って、多田くんは
あたしの手を引っ張った。


「とりあえず、三原いつも歩きだろ?
俺、自転車だからそれ乗って家帰る!んで、急いで写して
学校持ってきて提出して!」


俺、古典の単位やばいんだって!

と言って、手を繋いだまま
多田くんは歩き始めた。