電流が走るように、真菜に記憶が戻った。
「あ…お母さん…」
「行こう」
夏樹はもうコートを着ている。
窓の外では枯れ葉が舞っている。
真菜の手を荒っぽくつかんだ夏樹の手は、温かかった。
母との記憶が、真菜の頭の中に世話しなく流れこんできた。
せっけんのにおい、お母さんのエプロン、大好きだった卵焼き…
電車に乗った2人の間に、会話は無い。
しかし、真菜の頭の中では、確かな母との会話が再生されていた。
──「真菜ちゃん」「真菜ちゃん」──
──「ほら、真菜ちゃん、海よ」──
「真菜さん、海だ」
目の前は黒。
穴が開いたように月が浮かび、星が瞬いた。


