シリウス


「ね?分からないでしょう?そんなもんだよ。人の記憶なんて」


「違う!お母さんはあたしをっ、「本当にお母さんは、真菜さんを捨てた?」


「本当に、真菜さんのお母さんは、娘を捨てたりしたんだっけ?」


捨てた、という言葉と、夏樹の透き通った声が、真菜の胸に重くのしかかった。



──空には月と星。

目の前には 真っ黒な海。

空と海の区別がつかない。


「真菜ちゃん」

お母さんがあたしを呼んだ。泣いている。

水平線を探すのに夢中のあたしは、ゆっくりと振り向いた。


「真菜のためさかい。お前が悪いんじゃ」

加菜恵おばさんのしわがれた声が、怒鳴り付けるように言った。


「このままだったら真菜は学校にも行けん。お前なんぞを嫁にとってくださる方がおるんだ。

はよう喜んで嫁に行け」


お母さんの目が、まっすぐあたしを見つめる。

表情がよく見えない。


「少しだけ、待っていてね」

お母さんは優しく、どこか悲しそうに、そう言った。──