シリウス


真菜は、あの日のように水平線を探した。

後ろには夏樹が、あの日の母のように

優しく真菜を見守っている。


「お母さんね、お星様になったんだって」

ふいに話し始めた真菜の口調は、少女の様だ。


「だめだね。あたし、お母さんに可哀想なことしちゃったのかなぁ?」


「大丈夫だよ。だって、こんなに世界って大きいよ。真菜さんも、お母さんも、会えた事がすごい事だよ」

少女に言い聞かせるように話した夏樹は、また続けた。


「でもね、真菜さんも、僕も、今、この大きな世界のまん中にいるんだよ。世界は丸いんだ。

まん中の人なんかいないけど、みんなそうなんだ。

幸せになんないともったいないじゃない。まん中の人なんだよ。僕も、真菜さんも」


空には月が浮かんでいる。

低くなった気温は、真菜の息を白くさせた。


夏樹の姿はもう、見えない。

最初から、いなかったのかもしれない。

でも真菜は、ちっとも寂しくなんかなかった。


「夏樹、あたし、幸せになるね」


ふわっと潮風が頬を、赤くなった鼻をかすめる。

夏樹が真菜を抱き締めた。


見えないはずなのに、確かにそう感じた。


「そりゃ良かった」

耳元で夏樹が言ってくれた気がした。

いつものようにそっけなく。


「夏樹、ありがとう」

きっと夏樹は答えないだろう。

照れた夏樹がうつむく姿が目に浮かぶ。


ふっと笑った真菜の頭上には


あの日にも見た、シリウスが輝いた。


・・・fin・・・