──空には 月が浮かんでいた。


暗黒の空にはり付いた星とは対照的に、

ぼんやりと こちらを覗いていた。


幼い少女は、昼間とは一変して 黒く染まりきった海の向こうに

まっすぐにひかれているはずの 水平線を探していた。


「真菜ちゃん」

名前をよばれた少女は ゆっくりと振り向く。

名残惜しそうに 海に目配せをしている。


「少しだけ、待っていてね」

優しく、どこか悲しそうに 少女の小さな後ろ姿を見守っていた女性は


そういったきり

戻ってこなかった。──