「ごめんなさい…」先輩が稲森先輩に頭を下げる。声が震えている。きっと私と正反対の震えだろう。
「誰の方向いて言ってんねん!!伊織の方、向いて言えや!!」
こんなときなのに先輩が私を呼び捨てで呼んだことに反応してしまう。
「すみませんでした…」先輩二人は私の方を見て頭を下げた。でも私は黙りこんでいた。
「大丈夫か?」震えている私に制服の上をかけてくれた稲森先輩。穴が空いていた私の心はどんどん埋まっていく、そんな気がした。
私は内心ドキドキしていた。あんなにおちゃらけている稲森先輩があんな怖い顔するなんて…あんなにやさしい顔で声かけられたら私かてドキドキする。
先輩は女の先輩と話をつけたようで女の先輩はもと来た道を戻っていった。
代わりに稲森先輩がこちらに向かってくる。
「怖かったな」そう言いながら私の背中を擦ってくれる。
その言葉を聞いた瞬間涙が止まらなかった。
押し込めていた辛い思いが全部涙となった。


