俺は、看板に書かれた不動産屋に携帯で連絡を取ってみた。

案外簡単にわかるものだ。

店は解体業者にすべて任せたらしい。

解体業者の連絡先と住所を教えてくれた。

「解体業者しだいってことか…。」

呟いた俺に、そばに立っていた少年は言った。

「残ってると、良いね。」

俺はふと気になって聞いた。

「あんた、すげぇ日本語うまいけど、こっちに住んでるの?」

全く脈絡のない質問に、彼はきょとんとして、それから少し笑って答えた。

「ちょっと前に来たんだ。日本は初めて。」

「へぇ…。それにしちゃ、流暢だね、日本語。」

ふふっと、風に揺れるように笑う。

まぁ、こいつのことは置いといて。

今聞いた、解体業者に早速電話した。

「…でねぇな。」

ちっと小さく舌打ちして、携帯を切る。

「場所、わかるなら行ってみたら?」

彼はまた、何てことないように言う。

「え、あぁ、まぁ、この住所なら近そうだけど…。」

「じゃあ、行こう。」

行こうって…、なんだ?こいつ。

「あのさ、なんであんたも、行くぞ〜みたいな感じなわけ?」

ん?という顔を向けて、まずいかな?と聞き返される。

「いや、まずいとか、そういうことじゃなくて…。」

「なら問題ないよね。さぁ、案内してね。」

はぁ?っていうか、何様なんだ。

「名前…。あんたの名前何ていうんだ?」

何となく釈然としないまま聞く。

彼は振り向きながら、梅雨の湿った空気さえ、さらりと飛ばすかのように、艶やかに笑って言った。

「シオン。」