僕はショパンに恋をした

俺も、その映像を見たい人間のひとりだったが、シオンのことが気になって、控え室を離れる気にはなれなかった。

「無理、すんなよ?」

「うん、大丈夫だよ。僕、結構落ち着いてるよ。ちょっと疲れちゃったけど。」

ふふっと笑うシオンは、いつものシオンだ。

「それに、アンコールを弾き切るまでは、倒れるわけにはいかないからね。」

いたずら小僧のように、シオンは笑って目を閉じた。

「少し、横になって寝るか?」

俺が聞くと、首を振る。

「何か、もったいないから、起きてる。」

シオンにとっては、こんな大きなリサイタルは最後かもしれない。

だから、一つ一つを噛み締めているのだろうか。

そう思うと、小さなシオンの体が、いつもより一回りも小さく見えた。