風のゆらめく夕焼けだった。

まだ真夏には至らない、六年前の夏の様だった。

少し突き出たバルコニーから、外を見る。

ビルの窓に、夕焼けが反射している。

隣りに佇む、シオンの白い顔を、橙に染める。

「緊張…してるか…?」

俺が問うと、視線は眼下の大勢の客に向けたまま、ふわりと笑った。

「不思議と緊張してないよ。」

「そっか。」

俺は手に持っていたペットボトルを差し出す。

「ありがとう。」

シオンは受けとると言った。

「ん?」

俺も飲みながら、横目で見る。

「今日まで付き合ってくれて、ありがとう。」

リサイタルの為のタキシードに身を包んだシオンは、いつもより大人に見えた。

「何だよ…急に。」

少し照れくさくて、またぐっとペットボトルのお茶を飲む。

「そういうのは、舞台が終わってから、…言えよ。」

ちゃんと、倒れずに無事に終わって、俺に言ってくれ。

心からそう思った。