高校2年になった私のクラスには、ちょっと変わった男子がいた。



毎日毎日、手作りのお菓子を持って来てはみんなに振る舞う。


今どきお菓子を手作りする男子なんて珍しいから、1年のころから彼の存在は割と有名だった。

そのお菓子がプロ並みに美味しいということも含めて。



甘いものが大好きだという彼は、すれ違うと甘いお菓子の香りが漂う。



「今日はクッキーだよ!」

「うわっ。今日もうまそー」

「色々あるね。なに味?」

「プレーン、チョコ、ストロベリーに抹茶、んでこれが自信作のジンジャー!」



昼休みの恒例になりつつある高野の手作り菓子試食会。


教室の後方に集まる人だかりに、私はまだ入ったことがなかった。



窓側の後ろから2番目と言うくじ運のいい自分の席で、私は本を読む手を止めて、その人だかりを見る。



自分のことはよく解ってるつもりだ。


臆病な性格で、仲のいい友達の前でもいつも『これを言ったら嫌われるんじゃないか』とか考えて、いつの間にか無口に。

そんな自分を隠すための長いストレートの黒髪と長い前髪、俯きがちの顔。



私が自然と前を見れるのは、ピアノの音の中だけだった。



例の如く、臆病な私は賑やかな人の輪には入らず、ただそっと見守っているだけで良かった。

彼の笑顔を見るだけで幸せだった。


そう思っていつものように彼に目を向けた。
って、え?あ…


視線が合ってしまった。
慌てて目線を本に戻した私に、彼は寄って来た。



「…食べない?」