立ち上がってもらったまでは良いが、依然として堅苦しいままでいるらしい男性に困った顔をしている二人に対して、横から若い女性らしき高い声がする。アテナがそちらを見れば、赤い椅子に座っている。やはり主人側の女性だった。

「最低条件も分かってないらしいお二人さんに、心優しいシャウラが説明してあげます。この男は従者で、貴女方とシャウラは主人………従者が主人に忠実な僕でなければならないのは当然のことでしょう?」

自らをシャウラと呼ぶ女性を呆気にとられた表情で見つめるアテナ。それは、いくら貴族とはいえど何を言っているんだというような表情であった。
コレーは訳が分からないらしく困った表情のままアテナと自分を助けてくれた男性を見上げていた、それに気づいた男性がじっと見つめ返せばコレーは慌てて視線を外した。

「それは、あくまでも主従関係にある貴族の家の中の話ではないのか?」
「あら、これはそういうものですのよ」

当然だと言わんばかりの堂々としたシャウラの態度には思わず溜息をつきたいアテナであったが、やはり貴族はそういう思考なんだなと諦めるようにコレーを連れてそれぞれの席に帰ろうとした。

「このゲームは主人が従者を従えて勝ち抜いていく…そういう趣旨のお遊びなんですのよ」
「……」

背後から聞こえた言葉に、ピタリと足を止めたアテナは振り返らずとも分かるシャウラの楽しげな様子に嫌悪感を露わにしたアテナは冷たい表情で振り返りざまに吐き捨てる。


「バカ貴族共の娯楽なんてクソ食らえだ」

行こうコレー、とアテナはコレーの手を引いて歩く。コレーは手を引かれながらも、銀髪の男性を見つめていた。青い椅子に座る貴族の男性。
彼は何故青い椅子にいるのだろう、と考えながらアテナと共に自分の席へ戻っていった。

『さあ、皆様。いよいよゲームを開始いたします、どうぞ楽しんで下さい』

「…何が楽しんでください、だ」

アテナは椅子に座って腕を組んだまま、誰にも聞こえぬ声で毒づいた。
案外近くの席にいたコレーは背後からアテナをじっと見つめながら、周りにたくさんいる参加者を見渡した。
こんなにたくさんの人間でゲームができるものなのかと考えていた。