「ゲンドペアのお貴族様っていうのは金に汚い性根の腐ったクソ野郎が多いって聞くけど、本当かも知れないなコレー」
「え、えと…」
「なっ! ぶ、無礼者!」
「我々を馬鹿にしているのか!?」
「おまけに本当のことを言われると自分のことは棚に上げて怒る。貴族の名が呆れて物も言えないと思わないか?」

アテナと青年二人の嫌味な言い争いを聞いていた周りの参加者たちもは次第にクスクスと笑い声を漏らした。
周りにまで笑われているという怒りか恥か、震えながらアテナを睨んでいる二人は顔を赤くしたり青くしたりしている。不安そうな表情をしていたコレーではあったが、便乗するように小さく笑った。

不機嫌そうな青年二人がコレーとアテナに殴りかかる。
しかし、そのお世辞にも俊敏とは言い難い残念な動きを見たアテナは再び嫌味を込めて笑いながらコレーを庇うように抱き、半歩下がって体を逸らすだけでそれをあっさりと避けたのだ。

「あ、アテナお姉さん…」
「おいおい、まさか今ので殴り掛かったつもりじゃないだろうな? そんな間抜けな動きじゃ走り回ってるだけの子供にだって当たんないだろうよ」
「この……!」

コレーが心配そうに見つめるのをよそに、アテナはコレーを完全に自分の後ろに隠して万が一でも当たらないように下がらせた。
そんなことに気づくそぶりもなく再びアテナに近づこうとしたところで、青年二人とアテナの間にスッと長身の男性が割って入った。
透き通るような短めの銀髪に軽い革の上着と似たような素材で出来ているだろうズボン。気品を感じる身なりではないものの、襟には確かにシエナルドの貴族の紋章を付けていた。

「!」
「おいお前! 邪魔をするな!」
「くそ、誰かこの無礼な女に鞭を!」
「…騒ぐ方がみっともないこともあります。そのくらいにしませんか」

男性に静かに怒られると、さすがに勝てるとは思わなかったのか気に入らないといった表情を浮かべて男性とアテナに向けてくだらない悪口を言いながら椅子へと戻っていった。
男性はくるりと振り返ってアテナとコレーに向けて恭しく片膝をついて頭を伏せる。
貴族の紋章を持ちながら、明らかに庶民の娘二人にとる態度ではないというのは誰の目にも明らかであった。
どういうことかと不思議そうに見つめるコレーと、怪訝そうに見つめるアテナ。

「……大丈夫でしたか」
「あ、あぁ……別に構わなかったんだが。頭をあげて、立ってくれないか? 貴族にそんな風な態度をされると、こちらの方が委縮してしまう」
「…失礼しました。ですが、自分は従者側です。主人側の方に対しては適当な態度かと思います」
「……どういうことだコレー」
「わ、わたしにもよく……」
「簡単なことですわ」