「まず、わたしとアテナお姉さんは主人側です」
「…主人?」
「この赤い椅子の人です、青い椅子は従者…っていうんです」
「色が別けられているのはそういう理由か…」
「主人側の人は、エルフェミア、シエナルド、テジェンヌ、ムーリルフール、ゲンドペア…どの国かのお貴族様が立候補するか…そのお貴族様たちからの推薦でなれるんです」
「……私をここに連れてきた者はエルフェミアの国属大臣だ」
「わたしはムーリルフールの方にここに行くようにお話を聞いて…」

アテナは参加者たちがそれぞれ座っている椅子をさっと眺めた。確かにそれらは全て青か赤のどちらかだ更にそれに座っている者の服装を見て行けば妙に納得できる話だ。あまり、気分が良いとは言えないものだが。

そこまでの話を聞いて、ようやくアテナは自分を連れてきた古狸に嵌められたのだと気付いた。
アテナ自身は貴族というわけではなかったが、その爵位等を継ぐ可能性のあるということで大臣などからは厄介扱いされていた。
この危険なゲームであわよくば死んでもらおう、ということなのだろう。

そう考えると、尚更コレーのことが心配になった。
優しげなこの少女をわざわざこんな危ない所へ行くように説明した輩は一体どういうつもりなのか、アテナはしばらく怪訝そうな顔で考えていたがコレーが心配そうに見つめていたのに気付いて話の続きを聞くことにした。


「ええと、従者側の人ですが…さっきみたいな推薦があれば身分と出身が関係ないそうです。逆に、立候補する場合は貴族だとダメなんだそうです」
「…変なルールだな」
「わたしも、難しくて頭に入らないです」

苦笑交じりに言うコレーをみて頬を緩めたアテナだが、すぐ後ろで鼻で笑うような不快な音が聞こえてキッと睨むように振り返った。

「おい、見ろよあの庶民の女二人。あんな身なりでこっち側にいるぜ?」
「詳しいルールも知らずにゲームに参加するつもりなのか? どうせすぐに死ぬのが落ちなのにな!」
「主人側にいるのは俺たち貴族だけで十分だってのに面倒くさいなぁ」

下品な笑い声を聞いてコレーはしゅんと眉を下げて黙り込んでしまう。アテナはコレーの頭を撫でながらイラついた表情を隠すことなく貴族らしき青年二人を見る。
貴族であることを誇るのは構わないが、それを理由に違う生き物であるかのように民を見下すような輩は貴族を語るな、と口には出さずに留めた。
何を言っても明らかに話が通じなさそうな相手に真正面から喧嘩を売るのは同じくらい馬鹿だ、アテナは未だにニヤつく青年二人の襟についている紋章を眺める。
ゲントペア、大陸中で有名な金だけは無駄にある成金国家だ。しめた、と頭で悪いことをたくさん浮かべながら逆に鼻で笑ってやった。