苺を俺の口の中に押し込んで、
離れるかと思った唇はそのままに、再び舌が侵入してきた。
だがしかし。
ごろっと大きめの苺は舌を絡めあうには邪魔だ。
彼もそう思ったのか、またすぐに舌は出て行った。
同時に苺も何故か持って行った……と思ったらそれは半分だけで、俺の口には上半分が残されていた。
とりあえず苺、食べるか。
邪魔なのは予想できただろうに、何がしたかったんだろう。
よく解らないまま、苺に歯を立てようとしたその時。
早々と苺を食べ終えたらしい彼の唇が再び触れてくる。
いや、俺はまだ食べてないから。
そんな事は知ってか知らずか。
彼は俺の唇を開かせると、歯で咥えている実に舌を押し当ててくる。
すると潰れて、口の中に甘酸っぱい汁が溢れてくる。
……さすが人気店。味もいいし柔らかい。
きっとスポンジとクリームを邪魔しない、いい苺を使っているんだろう。
逃避してそんな事を考える。
グチュリと潰された苺は、そのまま何度も舌に押される。
果汁、その他諸々で口内がいっぱいになり、零れそうで慌てて飲み込む。
一度だけで済む訳もなく、俺は何度も喉を鳴らす。
……苺が美味しいのは解った。けど、今は仕事中だ。
やっぱりどうか普通に食べさせてほしい。これ以上はちょっと。いや、でも。
色々願っていると、ようやく唇は離された。
俺の口の端をぺろりと舐めながら遠ざかる彼の唇にも、薄赤い汁が付着していた。
それを、同じようにしてみようかという誘惑に駆られ、目で追う。
けれど間もなく彼自身の舌で舐めとられ、惑わされずには済んだ。