その開いた口に何をされるのか。
いや、彼が何をしたいのか。

一瞬だけ考えたけれども、答えはすぐに身をもって知る事になる。


開いた口に入り込んできたのは、熱い舌。
挨拶とばかりに唇をなぞり、そこからは遠慮も何もあったもんじゃなく、ぐいぐいと押し入ってきた。

口内を舐めまわす舌に、俺も絡め返すと、彼の舌は甘かった。

比喩ではなく、甘い。
まろやかな風味に砂糖の味。
そこにかすかに苺のような酸味が加わっている。


あ、ケーキだ。


気が付いた所で辺りを見回すと、彼の手元には、あの店の物であろうケーキがあった。
いつの間にか切られていて、2切れを皿に乗せている。しかしフォークは1つ。
2人分なのか、1人で食べる気なのかよく解らん。


俺の視線に気が付いたのか、唇が離れた。

「さすが人気店だけあるよね」

そう笑って同意を求めてこられても、いまいちケーキ自体の味は解らなかった。


「普通に食べさせろよ」

「うん。苺好きだよね?」

いや、普通に。普通にって言った。

なのに彼は苺を咥えると、再び顔を近づけてくる。
コイツ話聞いてねえ。

……聞く気がないんだな。