あの男……。



俺が顔を上げた先に、先程の茶髪の男はいなかった。



「な、なぁ、…寿、大和」


「んだよ」


「どうした、飛鳥?」



飛鳥の様子がおかしい。


何時もなら自分から喧嘩の渦に飛び込んで行くようなヤツなのに。

今は薬に狂っている奴等を気味悪がっているのか、少し引きぎみだった。



「コイツ等さぁ、何か増えてねぇ…?」


「そんな訳無いだろ。闇月の構成人数は百人ちょっとだぞ?」


「でもさぁ…。ここに来て何時間ぐらい経つんだよ。百人ちょっとなら俺達三人いればそんなに掛からないだろ?」



……。

………そう言えばここに来て何時間経った?


喧嘩をしていれば時間なんかあっという間に過ぎる。

数分の気がしても数時間経ってたりすることもある。



「…大和、見覚えあるか?」


「……いや、悪い。…人の顔、覚えるの嫌いなんだよ」


「……だよな」



コイツの場合は覚えるのが嫌いなんじゃなくて、覚える気が無い。

俺や飛鳥を覚えるのだって相当掛かった。



「……アイツ等なら知ってたかもな」



大和は目の前の相手に蹴りを食らわせながら呟いた。



「…コイツ等、鬼刃じゃね?…」


「…バカ相汰!総長達にバレるだろ!?…」


「…鬼刃だけじゃなくて、隣町の剣羅もいるよなこれ…」



隠れているつもりなのか。


喋るのに夢中で此方が気付いている事に気が付かない大和の仲間達。



「「……」」


「…大和のトコのだよな?」



飛鳥の言葉にため息を吐く大和。

あぁ。大和も苦労してるんだな。



「…いやいや。ちょっとあそこ見てみろよ…」


「…何処だよ…」


「…大和さんの右側の。アレ、東で頭はってる石ノ宮だろ?…」


「…うわっ、本当だ…」



結構、情報通だな。