弘子の切れ長の目が美久の顔を覗き込んだ。冷たい目・・美久は弘子を直視できなくて弘子と反対側に顔を背けた。
 覚悟って何? なんで恋をするのに覚悟が必要なの? 美久はただ幸せになりたいだけなのに・・

 美久が口を閉じたままにしてると、弘子が美久の肩をポンと叩いてきた。
「気晴らしにキャンプでも行く?」
 思ってもない言葉に思わず弘子のほうを向いた。
「何、それ・・唐突な提案・・」
 ホントにどういう神経なんだろう、この人。
「うん。二十三日の勤労感謝の日に行くからちょっと寒いんだけど、バンガロー借りてるし、夏の野外キャンプじゃなくて、昼間は外でバーベキュー、夜はバンガローの中でお鍋って感じで秋キャンプする予定なの。近くに温泉もあるから夜はみんなで温泉に行くのよ。どう? 楽しそうでしょ?」
「・・楽しそうだけど・・誰が行くの?」
「今のところ私と悟と悟の会社の同僚の男の子。ちょうど誰かあと一人女の子連れてきてって言われてたんだ」
「ふうん・・」
 美久は気乗りしない感じで返事をした。さっきまでひどいこと言われてたのに、いきなりアウトドアな気分になるわけないじゃん。
「たまには卓以外の男と遊べばいいんじゃない?」
「・・卓ちゃんじゃなきゃ意味ないよ・・」
「・・」
「ねぇ、悟くんって卓ちゃんの同郷の人なんでしょ? なんで卓ちゃんは誘ってないの?」
「誘ったけど、その連休は違うメンツで旅行に行くって言ってたのよ。・・聞いてないの? 卓から」
「・・聞いてない・・」
 なんだか腹が立ってきた。なんで美久が卓ちゃんのことでこんなに悩んでるのに。旅行ってなんなのさ! 美久とだって最近どこにも出掛けてないのに! バイクだって乗せてくれないし!!
 なんか怒りで気持ち悪くて、吐き気までしてきた。
「美久、大丈夫? ちょっと顔色悪くなってるけど・・」
 誰のせいだと思ってるの!
 美久は一瞬ギュッと目を閉じた。油断したらホントに吐きそう。
「帰ろっか? キャンプは別にいいよ。ムリに誘おうと思ってるわけじゃないから」
「イヤ! いい! 行く!」
 ちょっと声が大きくなった美久に、弘子は少しびっくりしてたみたいだけど、別にいい。もうなんでもいいや。とにかく美久も好きなことやる。楽しんでやる!