中央線のホームで電車を待っていると、肩にかけたバッグから携帯の振動が腕に伝わってきた。勝久くんだと思って無視をしようとした。
・・ブブブ・・ブブブ・・
 四回、五回・・長い。
 メールじゃないのかな? 電話?
 仕方なくバックから携帯を取り出した。
「あっ!」
 思わず声が出た。携帯の画面に表示されていたのは、思いかけず懐かしい名前だった。

「友樹?」
 名前を口にすると、懐かしさが胸に広がった。
『おう! 久しぶりやな』
 八年ぶりの声は、なぜか大阪弁になっていた。
「ふふ、大阪弁、変だよ」
『しょうがないやろー? 八年も大阪すんどったら言葉も変わってしまうわぁ』
「うん。なんか好きだよ。そのしゃべり。無条件に元気でる」
『ほんまかぁ? ならよかった』
 友樹は美久の高校の同級生。女友達の少なかった美久は、友樹といつも一緒にいた。時々彼氏彼女に間違われることもあったけど、友樹は最高の男友達! 別々の大学行ってもちょくちょく飲んでたけど、友樹が就職して大阪に行ってからは、だんだん疎遠になっていった。
『今、電話大丈夫か?』
「うん。電車に乗ろうとしてたけどね」
 目の前でブシューと音を立てて、ドアが閉まる。
『ほんま? 悪いなぁ』
「だいじょぶ、だいじょぶ」
 友樹の声なのに、友樹じゃない違う人と話してるみたいで新鮮な気分だった。さっきまでの最悪な気分が和らいで、胃の痛みが一瞬消えてる。
「それより、どうしたの急に電話なんかして。千葉に帰ってくんの?」
『いや、まだ大阪支店からは動けないんやけど・・ていうか永住になる可能性大なんやけど』
「うっそ、永住? じゃあ、もしかしたらこのまま会えない可能性も大じゃん。美久、大阪に遊びに行こうかな~」
『おう! 来い! そんで、そんまま美久も永住しようや』
「あはは、何言ってんのぉ~?」
『・・めっちゃ本気なんやけど・・』
「え~・・」
『・・』
「・・」
『美久・・今、男おるんか?』

 本気? 男おるんかって・・美久には今・・彼がいるのかな・・?