「ねぇ、ちょっといい?」


昼間から絶え間ない人々の数、夜はまた一段とその姿を変える新宿の繁華街。


バイト帰りで歩くことすら苦に感じる私が下に向ける視線の先には誰からの連絡もないピンク色の携帯電話。


私は話しかけてくるキャッチを誰からの連絡も無い携帯電話を武器にして無視する。


ぶっちゃけもうこれが習慣になっていた。


「は、無視かよ」


話しかけてきた男が軽く舌打ちをした。


私はふっと顔をあげて大きなため息をつく。


「うざい」


煙草に火をつけていた男はその手を止めてこっちを見る。


ため息を混ぜてぼそっとつぶやいたつもりが、どうやら聞こえていたらしい。


「あ?」


黒いスーツに白いシャツ。


首元にはギラギラと輝きを放つ金色のネックレス。


誰がどう見ても新宿歌舞伎町のホストだろう。


そのホストはズカズカと私に歩み寄り、私の腕を思い切り掴んだ。


「やめろって」


ちょうどその時、誰かが私とそのホストの間に割り入って来た。


そう、これがレンとの出逢いだったね。