雪人

「出ないの！？えっ？どうして？」

「今のお前なら気付いてるだろ？お前より強い奴なんてざらにいるぞ。少なくともリゼルを合わせてお前が一番弱ってことだ。わかったら準備しろ」
　ルイはハイドに言われたことに唇を血が出るまで噛み締める。
一番弱いのはわかってるつもりだが、認めたくない気持ちもある。気持ちだけじゃ何もならないのもわかってる。
それでも気持ちだけが先走るのを抑えられない。


強くなりたい


誰よりも強くなりたい



　レイドはルイのそんな様子をじっと見つめ心配そうな表情で見ている。少しきつく言い過ぎたと思ったが、自分の力に過信していたルイにはこれくらい言わないと駄目だとわかってるが少し反省するハイド。
少し感情移入しすぎたと思い、自分らしくないとも思った。

「明日の朝には帰るからちゃんと準備しておけよ。あと、レイド。この部屋使っていいぜ」

　そう言い、ハイドはドアへと歩いていき部屋から出て一階のカウンターに行った。
　その様子を見ていたルイも急いで身の回りの物を準備した後、ハイドの跡を追っていった。

「じゃあ、私も部屋借りてきて荷造りして来るわね。明日の朝八時に此処の一階ロビーね」

　メリルは立ち上がりそう言って部屋から出ていった。
　一人残ったレイドはリゼルの顔を一度見てから、窓から射し込むオレンジ色の暖かい光を見てこんな時間かと思うも、夕焼けの景色に唯見惚れていた。
その景色を見てポツリと呟いた。

「なんて世界は綺麗なんじゃ……」





　―――――――――



　翌朝、日の光も出ない内から物静かな道を二人の足音が響く。空はまだ少し暗く、それでも透き通るような薄い青空が広がっていた。

「師匠、何も言わずに帰ってよかったの？」

　昼間なら人通りが多く喧騒にまみれているが、朝方のため二人以外誰も居ない静かな道を歩きながらルイはハイドに聞く。

「いいんだよ。それより帰ったらみっちり鍛えてやるからな」

「うん」

　ハイドは不適に笑って、嬉しそうに笑い返すルイ。傍からみたら親子のような感じがするが、朝なため誰も見ていない。ハイドは立ち止まり後ろを振り返り店と店の間にある路地に視線をやったが、すぐに視線を戻して歩きだした。