岸谷くんのノート




スルリと何気なく岸谷くんの腕に巻き付く女の子の指に、灯はバッと下を向いた。


…困った。



困った困った。



灯は無造作に前に置いてあるノートに手を伸ばし、ガタンと席を立つ。


「あれ?灯ちゃん帰るの?」


「うーん、今日は用事があるからこの辺で帰るねー。」


上手く笑えたであろうか。


灯は自然に集まった勉強会のメンバーに手を振り、教室を出た。



左手にカバン。右手にノート。


それを揺らしながら灯は廊下を歩く。



「…困った。」



見ていられなかった。


視界から消えない、岸谷くんの腕に絡まる細い指。


大きくて綺麗な瞳。


可愛い鼻。


ぷるんとした唇。



…もしかしたら、岸谷くんがあの子の事を好きになってしまうかもしれない。


いや、もう、そうなっているのかも。


あんな可愛い子に心乱されないわけない。