岸谷くんのノート



困ること。


困ること。



…うーん。




なんとなく「困ったな」と思っていたのだが、なんでだろう。


そこまで深く考えていなかった。


物理の時間、灯はいつものノートを開けながら考えた。


トントントンとシャーペンの先を無造作にノートの端に当てる。


岸谷くん。


岸谷くんかぁ。


灯はただただ岸谷くんの事を考える。


休み時間、パンを豪快に頬張る岸谷くん。


授業中、先生に当てられると一気に眉間のシワが増える岸谷くん。


友達と話しながらちょっとだけ下手くそに笑う岸谷くん。



勉強会、教え方が上手いと褒められて、また眉間にシワを寄せる岸谷くん。


どうやら照れているらしい岸谷くん。


照れると怖い顔になる岸谷くん。



…可愛い。



「…上、井上!!」



「…は、はい!」


ヤバい。


ぼーっとしていて先生の話を聞いていなかった。


物理の隅田が冷たい顔をして睨んでいる。


「どうした、読め。」


読め…って、教科書?


灯は焦った。


教科書すら開いていない。


いったい何ページ?