「ん。」
岸谷くんはノートの問題文の一部に消しゴムを走らせ、正しい式を書き足す。
「あ!ごめん!写し間違いっ。」
灯は慌てた。
勉強教えてもらって岸谷くんをもっと知ろう大作戦が凡ミスでいきなりつまずくなんて。
あわわわと手足をバタバタさせ焦る灯に岸谷くんがポトンと落とすように口から言葉を出す。
「大丈夫。」
はた…と、わたわたしていた灯が動きを止めた。
“大丈夫。”
低くてとても安定した声。
重くて、そしてほのかに優しい声。
「…あれ。」
落ち着きと同時にやってきたこのバクバクする動悸はいったいなんなのだろうか。
「ここがマイナスになると…」
ノートに落とされたままの瞳にドキドキしながら、灯は岸谷くんの解説に耳を傾けた。


