岸谷くんのノート



「直接、かぁ。」





…………




「岸谷くん、ここ分かる?」



灯はどぎまぎしながら数学のノートを隣の無口な彼に突き出してみた。


ドキドキし過ぎて目が開けられない。


「…。」


返事がないのでそっと目を開けると、なんともぽかんとした顔をして岸谷くんが灯を見ていた。


あ、やってしまったかな。


しかしすぐに低い声で


「…どこ?」


とノートが引っ張られていったので、とりあえず灯はホッとした。


“触れ合い第一段階”成功。


心の中で「お姉ちゃんやったよ!」と叫びながら灯はノートに書き込んである問題文を指差す。


「これ。」


「…。」


「…。」


「…。」


岸谷くんはしばらく問題文と格闘したすえ、ガバッとその鋭い視線を上げた。


「井上。」


「はい。」


「これどこのページの問題?」


「教科書の124ページの。宿題で出てた。」


それを聞いて岸谷くんは自分の机から教科書を取り出し、パラパラと124ページを開ける。