みどりのまち、私はこのまちをそう呼んでいる。

いつだったか私はまだ幼くて、目の前にある幸せが当前のものと信じて疑わなかったころ、夏に家族で何度か訪れた場所だ。

川や海がキラキラと輝いていて、空は広く透き通っていて…何より、鮮やかな緑色をした山々がとても印象的だった。
一般的に都会と呼ばれるような場所に住んでいた私は、緑に囲まれたこのまちがまるで別世界のように感じていたのだ。
成長した今もそれは変わらない。

私は去っていく電車をなんとなく見送ってから大きく伸びをして、簡素なホームの向こうに広がる景色を見回した。
何年ぶりかに見るみどりのまちは相変わらずみどりのまちで、なんだか妙にホッとする。
昔と違うところは、17歳に成長した私が、今は一人でここに立っているということだ。

私は無人の駅を抜け、ゆっくりと歩きはじめた。
夏、無期限一人旅、思い出の場所にて。大きな旅行かばんと、バイトで貯めた少しばかりのお金をお供に。