この時のアタシは…


自分らしさを探すのに必死で。

まだ、周りが見えてなかった。


だから、直宏の意味深な言葉や沙雪姉ちゃんの転勤の理由なんて…

考える余裕がなかったんだ。



「じゃあ、本当に1人で大丈夫よね?」

「大丈夫だって。そう言ったの沙雪姉ちゃんでしょ!」

「まあ…そうなんだけど…」


いよいよ転勤するとなって、沙雪姉ちゃんはアタシ1人を東京に置いて行く事に不安を抱いていた。



「東京と北海道なんて、大した距離じゃないしっ」

「いや、遠いって!!」

「外国と比べたら?」

「近い…けど!」


もう…沙雪姉ちゃんったら…。

逆にアタシが心配になってきたよ。


「住む家も見つかったし、この沙雪姉ちゃんの家もちゃんと片付けるから。」

「…そうね。」

沙雪姉ちゃんには笑顔が戻っていた。


「ほら、荷物」

「ありがと」

「いってらっしゃい!」

アタシは沙雪姉ちゃんを笑顔で送り出した。