『住吉楼』に着き、斎藤と看病を申し出た紅妃は、芹沢達とは別室に入った。
斎藤は紅妃からの薬を飲み、しばらく横になり、紅妃は静かに窓から見える月を眺めながら手酌でゆったりと酒をたしなむ。
「…」
斎藤は寝なければとは思いつつも、近くで気になる女がしっとりと酒を飲む姿は、魅惑的でついつい見つめてしまう。
ふと、斎藤の視線に気が付いた紅妃は酒を飲む手を止め、斎藤を振り向き、首を傾げた。
「…綺麗だ…」
思わず零れた斎藤の本音に、紅妃の目は見開かれる。
「あっ、い、いや…」
「…フフフ…
ありがとう…」
普段、斎藤は思慮深く、口数も多くはない。
その斎藤が、己の発言に戸惑い焦る姿は好ましく、紅妃は素直に受け入れた。
紅妃の顔は、嬉しそうにはにかみ、優しく綻んでいた。
「……紅妃、俺は…」
「出てこいッ!!侍どもーッ!!」
「「………」」
優しい雰囲気を壊すように、響いた力士達の声。
わかっていても、雰囲気を破壊された斎藤は近くに置いてあった刀を取ると、ムクリと起き上がった。
その顔は、無表情ながら般若のごとき凄みが出ていた。
「…殺す…」
斎藤はポツリと溢すと、紅妃を振り返える事無く足早に下へ降りて行った。
「………
あいつ、具合悪かったよな?」
紅妃はクスクス笑い、ゆったりと斎藤を追いかけた。
