「………



は?」


しばらく間を置いて聞き返してしまう。

滅多にない紅妃の様子に、土方はニンマリしながら話し出す。

「だから、おめぇは、大阪行きだ。


今朝、芹沢から話しが来てな。
数日後には行こうと思っているってな」


至極楽しそうに話す土方とは、対極的に紅妃の顔はひきつった。


「…私は土方副長の小姓ですので、側を離れるのはいかがかと…」


紅妃は最後の抵抗を示す。


「いや、きにすんな!

何せ、筆頭局長からのご指名だ!

仕方ねぇからなぁ…

まぁ、行ってこい」


先ほどの仕返しなのか、残念がったふりを態とらしくする土方に、紅妃は思わず舌打ちする。


「チッ…




覚えてろよ…」


悔しげに溢れた紅妃の言葉は、ただならぬ殺気に満ちていた。

「…稽古してくる」


そう言い残すと、紅妃には珍しく足音荒く去って行った。


「…総司、おめぇ行かねぇのか?」

「…流石に、死には行けませんよ。

ははは…はぁ」


土方と沖田は、これから行われる紅妃の稽古と言う名の憂さ晴らしを受ける隊士達を思うと、乾いた笑いしか出なかった。





「ぎゃあぁああぁあッ!!」


「「………」」


聞こえた悲鳴を聞こえないふりをして、静かに合掌した。