夕闇近くなった頃、ようやく『幾松』がいる店を見つけた。


花街の隅にある小さな店だった。


「すんません、幾松はんはいらっしゃいますやろか?」


「へぇ、幾松でっか?

ちぃと、お待ちください…」


出てきた小さな男は、それだけ言うと奥へと下がっていった。

しばらくすると、勝ち気な事が見て取れる顔つきの綺麗な女性がやってきた。


「あんさんが、うちを呼ばはったん?」


「…幾松はんでっしゃろか?


うちは梅って言います…


うちに、



うちに…



長州の方を会わせてくださいませ!

うちには、奴らに復讐したいんや!」


いきなり意気込み表れたうちに、幾松はんはびっくりして目を見張る。


「ちょ、ちょっと、

いきなり何を言わはるの?


うちには、長州の知り合いなんかおらへんわッ!!


勘違いもええ加減に…」


「お願いします!

後生や!

うちは!

アイツラを…

土方と沖田を…

壬生狼をッ!!





殺さなあかんねや!」


素っ気なく帰されそうになって、お梅は必死にすがりつき、土下座をしながら幾松に頼み込む。


「…へぇ。

面白いじゃん…


いいよ。








殺してあげるよ」



頼み込むお梅と困り果てた幾松の後ろから1人の男が出てきた。


男と言うには、美しく、まるで女性のような容姿をしながら、お梅を見る瞳は暗く吸い込まれそうな闇に染まった色だった。