柾彦の母・結子(ゆうこ)は、忙しい日々を過ごしながらも、

柾彦の恋をじれったく思っていた。


笙子を紹介されてから、既に一月以上経っていた。


「あなた、柾彦さんは、どうされるのでしょうね。

 あちらさまにご挨拶に伺わなくてもよろしいのでございましょうか」

 結子は、夫の鶴久宗(つるくはじめ)に柾彦のことを相談した。


「柾彦ののんびりは、今に始まったことではないだろう。

 いい大人なのだから、柾彦の結婚のことは柾彦に任せておきなさい」

 宗は、ゆったりと構えて、結子の心配を他所に新聞に目を落とした。


 結子は(柾彦ののんびりな性格は、宗にそっくりだわ)

と思って溜め息をついた。



 柾彦は、土曜日の診療を終えて、慌てて車を東野の華道会館に走らせた。


 日々の診療と学会の準備に忙しく、華道展以来気になりながらも、

笙子には連絡を取っていなかった。


 柾彦は、会館の車寄せに車を止め、笙子が出て来るのを待つ。


 華道展の時に、毎週土曜日の午前中は、華道会館で稽古があり、

片づけが終わるのが一時頃だと笙子から聞いていた。