「そんなに嫌ですか、人に頼るのは」



少々のイライラを感じながら口を開くと、厭味ったらしい敬語になった。アキラの軽いカバンをぎゅっと握りしめて、少し睨むようにアキラを見る。
するとどうしたのか、アキラはさっきより苦しそうに呼吸を乱して、顔を手で覆った。
気分が悪くなったのかと少し心配したが、アキラはぎゅっと眉を寄せて不機嫌に




「さっさと帰れ」



と言ってきた。そして、苦しいのか胸をおさえて座り込む。
…いやいやいや。そんな状態で言われたら、帰るに帰れない。一瞬怒ってたことも忘れて、座り込んだアキラに合わせて私も座る。



「あのさ、そんな状態のアンタ置いてけるほど非道じゃないんだよ、私は」



そう言って手を伸ばすと、凄い力で止められた。驚いて掴まれた腕を見る。それから、アキラの眼を見る。



「痛い痛い痛い、」



眉間に皺を寄せて腕を引くが、びくともしない。何なんだこいつ。もう一度アキラを見ると、心なしか目が赤くなってる。充血とかじゃなくて、茶色がかってた筈の瞳が、赤い。




「…アキラ?」





次の瞬間、痛さに目を思いっきり瞑った。首筋にピリピリとした衝撃が走って、身体が強張る。心臓が移動したのかと思うくらい、首筋がドクドクと気持ち悪いほど脈打ってて、あつい。
ジュル、と耳に残る音がして意識が遠のく。目の前がぼやけてる。首筋に埋まってるアキラの頭をひっつかむと、思いっきり引きはがした。

はあはあ、と肩で息をして首筋に手をやる。ぬるっとした感触と首筋に走る痛さで顔を歪めた。…ヤバい、歯型着いてる…しかも、結構な血だぞこれ…。肘まで伝った血が、ポタリとアスファルトに落ちた。それを見てから、視線を上げる。ぼやける視界でアキラをとらえた。

アキラは口の端から洩れた血を一舐めすると、ハッとしたように目を見開いた。